20代の頃、当時私の勤めるメーカーのオフィスは、外資系企業がたくさん入っている高層ビルにありました。遠くから垣間見るエグゼクティブたちの仕事風景の中で一番衝撃を受けたのが、デスクにあるプラスチックのコーヒーマグ。シアトルの大手コーヒーチェーンが日本に普及した今ではもう当たり前の光景ですが、コーヒーを蓋付きのプラスチックのコップに入れて、仕事中に冷えかけたものを飲み続けるというのは、かっこいいのかかっこ悪いのか。今でも私はよくわかりません。
ヨーロッパの街のカフェ文化が大好きな私は、コーヒーはやはり紙やプラスチックではなく、陶器のカップで飲みたいのです。欲を言えばその日の気分でカップを選んで、カップが唇に当たる微妙な角度や質感、温かさを楽しみたい。吸い口のついたプラスチックマグでは、コーヒーの香りがわかりません。カップに口をつけたときにふわっと顔を覆う蒸気の暖かさ、唇に伝わる陶器の感触、熱さを楽しむこともなくなる。味気ない。道具には形や機能だけではなく、感触や嗅覚をきちんと楽しませるためのデザインも必要なのだ、と私は思います。
とはいえ。蓋つきマグの機能性も捨てきれない。仕事中にカップの底で冷えてしまったコーヒーも、また別のおいしさがあるものですが、ふと気づくと埃が浮いていたりして、興ざめです。そんなときに雑貨店でみつけたのがこのマグカップカバーでした。プラスチックのカバーを、クリップでマグに挟むというだけの実に簡単な構造。ところが、これがちゃんと機能する。陶器のマグだけでなくガラスのコップにも使えるので、夏場は大きなグラスに麦茶を入れて仕事場に持ち込んだりしました。縁が反り返っているデザインのものには取り付けられないのですが、直径8,5cmまでのカップやグラスなら、小さいものでもきちんと蓋が固定します。優秀。
製品全体でひとつの機能を実現するのではなく、すでにあるものに付け加えることで、ちょっと便利になるという発想ってとても大切。コーヒーカップの蓋。簡単なプロダクトデザインに見えますが、お気に入りのカップを大切にしながら、残ったコーヒーを無駄にせず、衛生度を保つという大切な暮らしの知恵が眠っているように思えます。さすがドイツ製ですが、実用本位にならず、てんとう虫がちょこんとついているのもいい。ささやかだけど、大のお気に入りのデザインのひとつです。 |