4年前の夏、バカンスでほとんどが休業状態のパリをぶらぶらしていたら、ショーウィンドウにあった車に偶然出会って恋してしまいました。ヨーロッパ車が好きで多くの車種を見知っていた私でしたが、この車は初めて。まだ日本未発売のシトロエンC3との出会いでした。
帰国後しばらくしてこの車が日本でも発売されたとき、迷わずシトロエンに足を運んで購入。決め手はやはり試乗したときのシトロエンたる足回りと走り心地ですが、あのパリの街のショーウィンドウの中できらきらと放っていた独特の存在感がどうしても忘れられなかったからなのかもしれません。恋の力は偉大なり。
さて、今回のこのエッセイのコーナーで私が車のデザインを語っても、さして新鮮さもないでしょう。実は私が取り上げたかったのは、このC3に標準装備でついてくる灰皿です。実際の形は写真のように丸い筒状ですが、これが運転席、助手席、後部座席のどの場所にもセットできるようになっている。それぞれの場所にあるドリンクホルダーに収まる形にデザインされています。
私は、タバコは吸いません。タバコの煙も嫌いですが、ただタバコを吸う人は嫌いではなく、吸いたい人には吸える環境を用意してあげたいと思う。確かに健康にはよくないけれど、おいしいお酒とごはんと、音楽とタバコの煙とおしゃべりがいい頃合に混ざり合うヨーロッパの町並みに癒されてきた身としては、あまりにタイトな嫌煙運動はちょっと息苦しいのです。
この灰皿は、簡単に着脱できて移動できることで「吸っても吸わなくてもお好きなように」「あなたの好きな場所でお吸いなさい」というエスプリを、あっさりと何気なく表出しているところがいい。家族が吸わなくても吸う人を乗せるかもしれない。助手席でも後ろの席でもいいし、窓を開けて灰皿を手に持って吸ってもらうとか、灰皿を持って車を降りて吸ってもらってもいい。丸みを帯びたC3の内装デザインに溶け合って、製品のデザイン当初から灰皿が標準装備として組み込まれているという安心感がある一方で、着脱型ですから「なくたっていいもの」という立ち居地もきちんと主張している。
とはいっても私は使わないので、タバコを吸う人にこれを出して「どうぞ」と言うのですが、今はたいていの人は遠慮します。でも車のデザインに溶け込んだこんな灰皿がダッシュボードから出てくるだけで、ひとつのメッセージになって場の緊張感をほぐしてくれる。デザインの持つメッセージ性というものはあなどれない、と思わせてくれる灰皿。さすがラテン、さすがフランス、さすがシトロエン>笑。使わなくたって、お気に入りなのです。
|